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横浜地方裁判所 昭和41年(む)184号 決定

被疑者 小泉梅野

決  定 〈被疑者氏名略〉

右被疑者に対する児童福祉法違反被疑事件につき昭和四十一年六月三日横浜地方裁判所裁判官門田多喜子のなした勾留期間延長の裁判に対し弁護人三野研太郎から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

被疑者に対する児童福祉法違反被疑事件につき昭和四十一年六月三日横浜地方裁判所裁判官のなした勾留期間を昭和四十一年六月四日より十日間延長するとの裁判はこれを取消す。

被疑者に対する右被疑事件につき横浜地方検察庁検察官のなした勾留期間延長の請求はこれを却下する。

理由

本件準抗告申立の趣旨及び理由は、弁護人三野研太郎の準抗告申立書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

よつて本件を審案するに被疑者に対する児童福祉法違反被疑事件につき横浜地方検察庁検察官松宮崇より刑事訴訟法第六十条第二号、第三号に該当する事由があるとして横浜地方裁判所に勾留請求がなされ昭和四十年五月二十五日同裁判所裁判官河野信夫が同条第二号、第三号に該当するとして被疑者を勾留する旨の裁判をなし更に同検察官より「被疑者取調未了、安藤こと富田林一移監の上取調予定、一郎についても捜査中」であるとの理由により勾留期間を昭和四十一年六月四日より十日間延長するとの請求がなされ、同年六月三日同裁判所裁判官門田多喜子が関係人取調未了の事由により勾留期間を同年六月四日より十日間延長する旨の裁判をなしたことは本件記録により明らかである。

そこで本件勾留延長につき刑事訴訟法第二百八条第二項にいわゆる「やむを得ない事由」があるか否かにつき検討する。

本件記録によれば被疑者は一郎なる者が連れて来た小野美雪をその年令を確認しないで、自己の抱え芸妓として雇入れ、熱海市内の施館若狭館において売春させたもので、一郎に右小野美雪を引渡したのが安藤茂こと富田林一だというのであるから、本件事案の全ぼうを把握するには単に小野美雪及び被疑者の供述並びに若狭館の関係人等を捜査するのみでは充分とは云えず、右一郎及び富田林一を取調べる必要性は多分に存すると認められるけれども、右富田林一は被疑者と直接交渉のあつた者ではなく又現在岡山刑務所に服役中であつて検察官は移監の上取調べる予定というのであるから、被疑者を釈放したとしてもこれと通謀することは考えられず、被疑者を勾留して置かねば富田林一に対する取調べが困難となるような事情はうかがわれない。又一郎については本件記録を精査するも現在その所在は明らかでなく被疑者を勾留している間に逮捕が可能であるとも認められず被疑者が同人の所在を知りながらかくしている節がうかがわれるわけでもない本件において唯単に一郎の捜査未了の故を以つて被疑者の勾留期間延長がやむを得ない事由に該るとは考えられない。被疑者の警察及び検察庁における供述によれば一郎の言うまま十九才か二十才と思つたから十六才とは知らなかつた旨述べており、被疑者を釈放した場合、もし一郎と連絡可能となれば或はこの点につき通謀するのでないかとの疑念が生じないわけではないが仮に被疑者と一郎がその点につき通謀したとしても、既に被疑者に対しては警察において一回、検察庁において一回相当詳細に取調べがなされておるから若干健康を害しているやにうかがわれる被疑者を拘束しておく程の必要はないと云わざるを得ない。

よつて前記勾留期間延長請求を理由があるとして被疑者に対し勾留期間を延長した原裁判は失当であり、本件準抗告の申立は理由があるから刑事訴訟法第四百三十二条、第四百二十六条第二項により原裁判を取り消し、更に前記勾留期間延長請求を却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 斎藤欽次 広岡得一郎 千葉庸子)

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